インターネットを中心に情報が溢れ、ただでさえ事実の見極めが難しいこの時代、荒唐無稽な「陰謀論」を信じてしまう人が増えている。コロナ禍、不況、先の見えない生活への不安から、藁をも掴む気持ちで陰謀論に救いを求めてしまう人が多いのかもしれない。
ここでは、さまざまな都市伝説や陰謀論の信憑性を検証した『謎解き「都市伝説」』(彩図社)より一部を抜粋。世界中で信じられている「秘密結社フリーメイソン」と並んで有名な伝説「超秘密結社イルミナティ」の真相を解き明かす。(全2回の2回目/前編を読む)
『超秘密結社イルミナティ』伝説の内容は…
世界征服を狙う秘密結社フリーメイソンの陰謀は、一般の人々の間でもかなり広く知られるようになってきた。だが、フリーメイソンの裏にさらなる超秘密結社が隠れていることをまだ多くの人が気がついていない。フリーメイソンを裏から自在に操る人類史上最悪最強の超秘密結社、それが「イルミナティ」だ。
超秘密結社イルミナティは1776年5月1日、ドイツ南部のバイエルン王国で結成された。その地名から「バイエルン啓明結社」とか「バヴァリア幻想教団」などとも呼ばれている。イルミナティを創造したのは、当時インゴルシュタット大学で法学部教授を務めていたアダム・ヴァイスハウプト(※1)。彼はまたフリーメイソンの会員でもあった。
ヴァイスハウプトは、当初イエズス会士から教育を受けていた。だが彼はやがて既存の教会に対し激しい嫌悪を抱くように変わっていき、さらに教会や王や貴族といった上流階級だけでなく、国家や社会規範などすべての権威を打ち倒す必要があると考える危険思想へと染まっていった。人類を堕落させ、精神的な奴隷とすることを目的にした超秘密結社イルミナティは、こうして結成された。
悪の組織イルミナティは、結成後3000人を超える会員を擁する大結社へとすぐに成長していき、今もまた人類の歴史をその裏から誰にも気が付かれぬようにそっと操っているのである。
『超秘密結社イルミナティ』伝説の真相
「イルミナティなんて団体、本当にあるの?」という質問を時々聞くが、その問への正しい答えは、「かつては確かに実在していた結社」ということだ。つまり過去完了形の団体であって、イルミナティは昔は存在していたものの、今はもう解散して存在していない。
今もイルミナティと名乗っている団体がいくつかあるにはあるが、それはかつて実在した本物のイルミナティの名を借りているいわば「真似っ子団体」に過ぎず、消え去った元祖イルミナティとは何の繋がりもない。
最強の秘密結社「イルミナティ」の実像
イルミナティやフリーメイソンといった秘密結社が活発な活動をしていた1784年、バイエルン王国はこれら秘密結社の存在に危惧を抱いて、あらゆる結社の活動を停止する勅令を発令した。この勅令によってまだ結成8年目だったイルミナティは、大弾圧をくらうこととなった。弾圧によって自分の身に危険を感じたアダム・ヴァイスハウプトは、近隣のザクセン=ゴータ=アルテンブルク公国へと亡命、そのままバイエルン王国に帰ることもなく亡命先で30年近く過ごし亡くなっている。
つまり秘密結社イルミナティが、この世に存在できていたのは10年足らずに過ぎず、フランス革命が起きる前に解散させられていた組織だったのである。
それでも潰れて230年以上たった現在でも、裏で世界を操る「悪の秘密結社」とか言われ続けているのだから、秘密結社「イルミナティ」、はある意味大したものではある。最もこれは「イルミナティ」そのものの成果というよりも、よってたかって「イルミナティ」を世界を牛耳る悪の秘密結社に祭り上げてしまった陰謀論者のみなさんの業績といえる。
イルミナティとフランス革命の意外な関係
すぐに潰れてしまった軟弱組織イルミナティが、延々と生き続ける「世界を牛耳る悪の秘密結社」へと祭り上げられたのは、イルミナティが潰れた後に起きた「フランス革命」のお陰だった。
フランス革命の結果、王や教皇などから解放されてフランスには自由の天地が訪れるはずであった。だが以前の独裁体制は滅びたものの、自由の天地どころかフランスは恐怖政治の時代へともつれ込んで行ってしまった。
革命の主役となった市民の側は「革命の方向を狂わせた黒幕がどこかにいるはずだ」と考え、その一方で既得権力から引きずり下ろされた王侯貴族や聖職者たちの側もまた「無知蒙昧な一般大衆が大規模な社会変革など実現できたわけがない」と決めつけ「犯人捜し」を必死で始めた。その結果、最終的に行き着いたのが「イルミナティ陰謀論」だったというわけだ。
「イルミナティ陰謀論」が生まれた理由は、フリーメイソンが陰謀結社とされたのと同じである。そもそもフリーメイソン陰謀論とイルミナティ陰謀論は、フランス革命の後に出版された一対の書籍から生み出された「双子の陰謀論」だったのだ。
メイソンとイルミナティの陰謀を主張する書籍は、1797年に2冊刊行されている。1冊目がオーギュスタン・バリュエル(※3)という神父が書いた『ジャコバン主義に関する報告書』という書籍で、もう1冊がジョン・ロビソン(※4)という大学教授が出版した『確かな権威筋によって集められたフリーメイソンリーとイルミナティと読書協会の秘密の会合で続けられている欧州すべての宗教と政府に対する敵対する証拠』というやたら長い題名の本であった。
ロビソンの書籍の書名の中に、メイソンとイルミナティの両方が仲良く入っていることからも分かるように、両結社に対する陰謀論は、この頃ほぼ同時に生まれた。これら2冊の本はどちらも大ベストセラーとなり、フランス革命はメイソンとイルミナティによって引き起こされた陰謀であったと決めつける決定打とされていった。
イルミナティに光明を授けたのは堕天使ルシファー?
今も実在しているメイソンに対して、あっという間に消えてしまったはずのイルミナティが、未だに陰の陰謀結社として語り継がれる理由として、「イルミナティ」というこの名称の響きがどことなく格好いい、ということがあるのではと個人的には思っている。
イルミナティとは、英語のイルミネーションといった言葉遣いからもわかるように、「光明を授けられた者」といった意味がある。では、イルミナティにその光明を授けたのは一体誰だったのか? それは「光明をもたらす者」という名を持つ、堕天使とか魔王などとも言われているルシファー(※5)だとされている。アンチキリストの代表格の魔王から光明を授けられた以上、イルミナティも悪魔の団体に間違いないというわけだ。
オカルトに興味のある人ならば、この「堕天使ルシファー」という名を、一度ならず聞いたことがあるに違いない。元々は天使長の地位にあったルシファーだが、神の命令に背いたため天国を追放され魔王サタンと化した、などとよく説明されている。
だが聖書には、ルシファーが堕天使である、などとは一言も書かれていない。ルシファーとは「明けの明星」という意味で金星を表す言葉だ。それがどういうわけか堕天使になっちゃったのは、誤訳というか勘違いによるものだった。
イザヤ書の14章12節に「ああ、お前は天から落ちた明けの明星、曙の子よ。お前は地に投げ落とされた、もろもろの国を倒した者よ」などと、天から落ちた者を連想させる、いかにも思わせぶりな一節があるので、この「お前」とは堕天使ルシファーを指しているに違いないと勝手に解釈されてしまったのだ。
だが、この文章に出てくる「お前」というのは、堕天使などではなく、この節の前の文章に出てくるバビロニア王ネブカドネツァルなどのことを指している。堕天使ルシファーなどというものは、聖書の読み違いによって生み出された勘違いだった可能性が高いのである。
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※1 アダム・ヴァイスハウプト(1748~1830) ドイツの哲学者。インゴルシュタット大学の教授を務めていた1776年にイルミナティとなる友愛結社を創設。1784年にイルミナティが政府により禁止されると、大学での職を失い、ザクセン= ゴータ公国に亡命した。
※2 ザクセン=ゴータ=アルテンブルク公国 1600年から1826年まで存在した公国。現在のドイツ中部、テューリンゲン州の一部に当たる。
※3 オーギュスタン・バリュエル(1741~1820) イエズス会司祭、陰謀論者。フランス革命が始まるとイギリスに避難。反革命的な立場からフリーメイソンとイルミナティがフランス革命に関わっているとする『ジャコバン派の歴史を説明する回想録』(1797年)を出版。イルミナティ陰謀論の形成に大きな影響を与えた。
※4 ジョン・ロビソン(1739~1805) イギリスの物理学者、数学者。サイレンを発明し、ジェイムス・ワットと初期の蒸気自動車を発明するなどの功績がある優れた学者だったが、オーギュスタン・バリュエルの著書などの影響を受け、晩年の1797年に『確かな権威筋によって集められた~』を出版。イルミナティ・フリーメイソン陰謀論を広めた。
※5 ルシファー キリスト教における堕天使の長・サタンの別名。天界でもっとも美しい大天使だったが、神に反乱を起こして、堕天使になったとされる。
Source taken from: https://bunshun.jp/articles/photo/60690