値上がりの原因は、円安ばかりではない
やすお:円高・円安になることで、消費者にもさまざまな影響があると思います。今、食品や電気代が高くなっていますが、これは円安の影響ですよね?
永濱:主因は化石燃料や穀物価格の値上がりですが、円安も加担しています。為替が消費者に与える最も大きな影響は、輸入商品の価格が変化して、買いやすくなったり買いにくくなったりすることです。
日本の場合は、輸入しているものが多いので、円安がマイナスに働く側面もあります。
やすお:エネルギーはほとんど輸入ですよね。
永濱:はい。日本は原油や天然ガスのほとんどを輸入に頼っています。エネルギー自給率は10%程度しかありません。だから、円安になるとそれらの調達コストが上がります。エネルギー価格が値上がりし、消費者の負担が増えます。
自前でエネルギー資源が採れる国は、資源価格が上がるとむしろプラスなんですけどね。
やすお:日本は食料品も輸入が多いですよね。
永濱:そうですね。小麦、大豆、トウモロコシ、コーヒー豆などの原材料は、日本で十分な量をまかなえず輸入していますから、円安になると、仕入れコストが上がります。それにともない、それらを原料にしている食料品の値段も上がっていきます。
たとえば小麦の値段が上がれば、パンや麺、お菓子が値上がりしますし、大豆の値段が上がれば、大豆製品や調味料が値上がりします。トウモロコシは家畜の餌になるので、この値段が上がると、お肉や乳製品も値上がりします。
やすお:飼料の値段が上がると、肉などの値段に派生していくのか。気づきませんでした。
永濱:ただ、今の値上がりはすべて円安が原因かというと、実はそれだけではありません。ロシアのウクライナ侵攻で、輸入品そのものが値上がりしています。
たとえば、ウクライナは小麦の世界的な産地ですが、ロシアの侵攻によって小麦の輸出が減りました。すると世界的に小麦が不足しますから、小麦の値段が上がるわけです。
やすお:輸入品そのものの値段が上がっている、という要素もあるんですね。
永濱:「値上げはすべて円安のせい」みたいなことを言っている人がいますが、それだけじゃないよ、と言いたくなります。
やすお:なるほどなー。
「食料とエネルギー」にお金がかかる日本とEU
永濱:あと、これは日本の宿命なのですが、日本は家庭の消費支出に占めるエネルギーと食料の割合がどうしても多くなってしまいます。両方合わせて消費支出の3割以上を占めています。
やすお:他の国は違うのですか?
永濱:アメリカはその半分以下です。エネルギーと食料品が占める割合は1割強しかありません。国内でシェールガスが取れますし、穀物もたくさん取れるので、収入と比較して安く手に入ります。だから、その分、他のことにお金を使えるわけです。
やすお:なんと! ゲームの初期設定で差がついているのか。
永濱:ちなみにEU(欧州連合)の国々も、消費支出に占める食料とエネルギーの割合は4分の1ぐらいあります。日本よりは若干低いですが、アメリカより圧倒的に多い。
日本やEUの国々は、消費のうち4分の1以上を食料とエネルギーに費やさないと生きていけませんが、アメリカは違います。それだけアメリカは豊かということです。
円高だと輸入品やエネルギー価格が下がる
永濱:でも、円安は、消費者から見ても悪いことばかりではないんですよ。
為替が動くと、輸出や設備投資が増えたり減ったりするので、そこで働く人の雇用が増えたり減ったり、お給料が増えたり減ったりといったこともあります。
円安の場合は国産品が売れやすくなるので、雇用が増え、給料も増えやすくなります。
やすお:円高だとその逆、雇用が減って給料が減るのですか?
永濱:そういう面もあります。しかし、円高には良いこともあります。たとえば、輸出商品の売上が減る一方で、輸入商品が安くなります。エネルギー資源も安く仕入れられるので、電気代などの光熱費も下がりやすくなります。
また、円高であれば円安のときよりもより多くの外貨に両替できるため、海外旅行に行きやすくなります。
何事にも一長一短はあるものです。
永濱 利廣
第一生命経済研究所
首席エコノミスト
Source taken from: https://gentosha-go.com/articles/-/49855?page=2&per_page=1