ヤギと暮らす人たちに聞く“飼う”ことの魅力。かわいくて、よくなついてくれる最高のパートナー

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犬や猫だけでなく、最近はさまざまな動物を飼う人たちが増えてきている。そのなかで、じわじわ飼育数が増えてきているのがヤギだ。

ヤギは実は飼いやすくておとなしくてよくなつく、そして、人にも飲みやすく吸収しやすいミルクを出してくれたり、雑草を食べてくれたり、有害鳥獣を寄せ付けなくしてくれたりもする、とても役立つ動物だ。

(『ヤギと暮らす』より)
(『ヤギと暮らす』より)

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そのため、戦中と戦後の食糧難の時期にヤギは重宝され、日本での飼育数は増え続け、1957年には60万頭に達した。その後、経済発展とともに数を減らし、2012年には約2万頭まで落ち込んだが、再び飼う人が増え始め、2022年には約3万頭まで増えている。

そんなヤギと暮らす人たちと、ヤギについての素朴な疑問とその答えを著書『ヤギと暮らす ヤギのすべてがわかる本』(扶桑社)から紹介する。

ハイジにあこがれ、ヤギとの理想の暮らしを目指して移住

現在、長野・売木村で暮らす池上宝さんは、この村の村長から突然「ここに移住してヤギの牧場をやりませんか」と連絡を受けた。

よりヤギに適した環境の村に移住した池上宝さん(『ヤギと暮らす』より)
よりヤギに適した環境の村に移住した池上宝さん(『ヤギと暮らす』より)

調べると、そこは標高850~1000メートルにある小さな山村で、夏は涼しく、冬は程よく乾燥するヤギの飼育に適した土地だった。

『アルプスの少女ハイジ』の世界にあこがれて就農し、ヤギを飼っていた宝さんは「そこなら、もっと“ハイジ的な生活”が実現できそう」と思い、移住を決意。

放牧されお腹いっぱい草を食べる宝さんのヤギ(『ヤギと暮らす』より 写真/石井沙苗)
放牧されお腹いっぱい草を食べる宝さんのヤギ(『ヤギと暮らす』より 写真/石井沙苗)

宝さんは、村のあちこちに点在する耕作放棄地に、ヤギたちを軽トラックに乗せて移動させて放牧している。

毎日、草地を変えて放牧することで、ヤギは飽きずに草を食べ、草丈は程よい高さで維持される。

「TAKARA チーズ工房」で販売しているヤギミルクとチーズ(『ヤギと暮らす』より 写真/TAKARA チーズ工房)
「TAKARA チーズ工房」で販売しているヤギミルクとチーズ(『ヤギと暮らす』より 写真/TAKARA チーズ工房)

3~10月は毎日移動放牧が行われ、雌ヤギたちは青い野草だけを食べる。だから宝さんが搾るヤギミルクは、完璧なグラスフェッド(牧草飼育)のミルクになる。

現在はそんなミルクを利用して、ヤギチーズ作りを始め、「TAKARA チーズ工房」を開業。今や村の観光名所となっている。

ヤギを飼って30年、飼育を通して命の尊さを教える

30年以上前から、自宅の敷地でヤギを飼い始め、以来、今井明夫さんの家にヤギが絶えたことがない。

今や2棟のヤギ小屋に、部屋数6室という大所帯となっている。

子ヤギにミルクを与える今井明夫さん。子ヤギは人工哺乳でも十分に育つ(『ヤギと暮らす』より)
子ヤギにミルクを与える今井明夫さん。子ヤギは人工哺乳でも十分に育つ(『ヤギと暮らす』より)

新潟県三条市にある今井農園では、1ヘクタールの農地に、さつまいも、サトイモ、ジャガイモ、菜種、キャベツ、ニンジンなどの作物を栽培しているが、一部はヤギのための牧草地にしてある。

今井さんが刈り取った牧草をもりもり食べる子ヤギたち(『ヤギと暮らす』より)
今井さんが刈り取った牧草をもりもり食べる子ヤギたち(『ヤギと暮らす』より)

「ヤギと暮らすのなら、ぜひ畑を持ってその一部を牧草地にしておくことをおすすめします。牧草は夏だけしか伸びない雑草と違って、春先から伸びて、何回刈ってもすぐまた伸びてきますからね」

戦中生まれの今井さんとヤギのつきあいは古く、食糧難のなかの幼少時代、ヤギのミルクで栄養不良にならずスクスクと育ったという。

そんな今井さんが20年もの間、ライフワークにしているのが、地域の小学校でのヤギの飼育学習だ。

子ヤギに群がる子供たち。これから1年間、みんなでヤギを育てていく(『ヤギと暮らす』より)
子ヤギに群がる子供たち。これから1年間、みんなでヤギを育てていく(『ヤギと暮らす』より)

ヤギの飼育学習は、小学1年生が担当する。6月の「ヤギの入学式」から始まって2年生の6月の「ヤギの卒業式」で終わる1年サイクル。

春にはヤギの出産もあるという。1年間の飼育期間中、今井さんは何度も小学校に足を運んで、子どもたちに飼育の指導やヤギに関する出張授業を行い、ヤギと触れ合うことで命の大切さを伝えている。

ヤギミルクの新しいビジネスを開拓

「ヤギミルクはビジネスとして面白そう」と考えた今井崇さんは、会社員を辞め、愛知県新城市にある実家の「ヤギ野ナナファーム」にUターンした。

きっかけはヤギミルクがペット用として需要があることを知ったことだった。

現在30頭のヤギを飼育している今井崇さん(『ヤギと暮らす』より)
現在30頭のヤギを飼育している今井崇さん(『ヤギと暮らす』より)

犬などのペットは、牛乳を飲むと乳糖不耐症やアレルギーを起こすことがあり、獣医も犬に牛乳を与えることをすすめない。

その点、ヤギミルクは消化吸収がよく、ペットがアレルギーを起こすことがほとんどなく、しかも栄養価が高い。

「ヤギ野ナナファーム」のヤギたちは人が大好き。カメラを向けても物おじせず、興味津々で寄ってくる(『ヤギと暮らす』より)
「ヤギ野ナナファーム」のヤギたちは人が大好き。カメラを向けても物おじせず、興味津々で寄ってくる(『ヤギと暮らす』より)

当時のペット用ヤギ乳は、外国産ヤギ乳粉末がほとんどだった。そこで今井さんは、ペット用のヤギミルク「100%国産生ヤギミルク ペット用」の販売を開始し、売り上げを伸ばしていった。

「ヤギ乳をかけるとよくドッグフードを食べる」「何も食べなかった老犬がヤギ乳を飲んだ」など多くの飼い主からヤギ乳を称賛する声が聞かれたという。現在の主な収入源は、ペット用生ヤギミルク、子ヤギの販売、除草用ヤギのレンタルなど。

「ヤギ野ナナファーム」のペット用のヤギミルクと、ヤギミルクパウダー(『ヤギと暮らす』より)
「ヤギ野ナナファーム」のペット用のヤギミルクと、ヤギミルクパウダー(『ヤギと暮らす』より)

「今後は、ヤギチーズ、ヤギ肉のジャーキーなどヤギ製品の品目を増やし、観光もできる牧場にすることも考えています。夢は、古くからヤギ市場が開催されてきたこの地域を、全国からヤギ飼いが集まる土地にしていくことです」と今井さんはヤギビジネスにさらなる可能性を感じている。

ヤギはどこから入手できる?値段は?

ヤギは牧場やヤギのブリーダーから購入するか、または愛知、長野、群馬で開催されるヤギ市場でも購入できる。

昔はヤギを飼っている人から譲ってもらうケースが多かったが、今は、ヤギを譲ってくれる人をネットで探すのもひとつの方法だ。ヤギの値段は、年ごとに変動があるが、雌の子ヤギが3〜5万円といったところだという。

ヤギ市は6~9月に開催され、春に生まれた子ヤギを中心に取引される(『ヤギと暮らす』より 写真/白柿洋征)
ヤギ市は6~9月に開催され、春に生まれた子ヤギを中心に取引される(『ヤギと暮らす』より 写真/白柿洋征)

個人で飼う場合は、1頭でも地域の家畜保健衛生所に届け出が必要。

何頭もヤギを貸し出したりするときは、動物取扱業の許可も必要になる。

ヤギの寿命は10~12年。3カ月ほどで離乳し、7~8カ月で最初の発情を迎える(『ヤギと暮らす』より 写真/石井沙苗)
ヤギの寿命は10~12年。3カ月ほどで離乳し、7~8カ月で最初の発情を迎える(『ヤギと暮らす』より 写真/石井沙苗)

日本ザーネン種のヤギには血統登録制度があり、血統書つきだと取引価格も高くなる。

ヤギには動物愛護管理法が適用され、みだりに傷つけたり、遺棄したりすると罰せられる。

仕事をしていても飼える?暑さ、寒さに強い?

仕事をしている人が片手間でヤギが飼えるのだろうか。答えはイエス。

ヤギ小屋に隣接して運動場を設け、ヤギが自由に出入りできる環境を作ってあげることが大切になる。

ヤギは雑草を食べるので、比較的飼育する手間がかからない(『ヤギと暮らす』より) 
ヤギは雑草を食べるので、比較的飼育する手間がかからない(『ヤギと暮らす』より) 

ヤギは過酷な環境にも耐える動物だ。皮下脂肪が少ないため寒さに強いとはいないが、寒い場所では密度の濃い冬毛を蓄え、胃が発酵タンクになって熱源にもなる。

そのため気温がマイナス15℃ぐらいなら、ヤギ舎で健康に冬を越せる。ただし雨や雪を避ける屋根のあるヤギ小屋は必要だ。

ヤギは高温多湿を嫌うので、ヤギ小屋は風通しのいいつくりにしたい(『ヤギと暮らす』より)
ヤギは高温多湿を嫌うので、ヤギ小屋は風通しのいいつくりにしたい(『ヤギと暮らす』より)

ヤギは寒さよりも暑さと湿気が苦手。人と違って発汗による体温調節ができないので、暑いときは熱中症に注意して、直射日光を避け、風通しのいい場所を確保しよう。

ヤギは濡れた場所が大嫌いなので、ヤギ舎の床は常に乾いた状態に保とう。また、犬が大の苦手なので注意しよう。

ヤギは人になつくの?

ヤギはとても人間が好き。なかでも日本ザーネン種は人になつきやすく、人工哺乳で育てると大人になってからも人なつこいヤギになる。

子ヤギを母ヤギから離した後に人工哺乳すると、子ヤギは人を親と認識するので、小さいときから愛情を持って育てると、家族同様の存在になる。

愛情をこめて育てられている今井さんのヤギは人懐っこい(『ヤギと暮らす』より)
愛情をこめて育てられている今井さんのヤギは人懐っこい(『ヤギと暮らす』より)

名前をつければ自分の名前を覚えて、名前を呼べば返事をするのでとてもかわいい。覚えてもらうには、エサをやるときに名前を呼んであげるといい。

ただ、トイレの場所を決めてする習性はないので、トイレのしつけはかなり難しい。しつけの前のコミュニケーションも大切。話しかけるときはヤギの目線で、ヤギの目を見て話しかけるようにしてほしい。

『ヤギと暮らす ヤギのすべてがわかる本』(扶桑社)
『ヤギと暮らす ヤギのすべてがわかる本』(扶桑社)

監修/今井明夫
技術士(農業・畜産)。東京農業大学卒業。1969~1972年、スイス・イギリスの試験研究機関で研修。1972~2004年、新潟県職員として畜産の試験研究に従事した後、2004~2013年、新潟大学地域共同研究センター客員教授。2010年には中国河北省邯鄲市、山東省徳州市で酪農・肉牛の技術指導。2010~2017年、全国山羊ネットワーク代表。1992年から新潟県内の小学校でヤギ飼育を通した生活科・総合的学習の指導を長らく続けている。著書に『まきば便り』(東京農大出版会)、『山羊のいる学校』(銀の鈴社)、『ヤギの科学』(朝倉書店)など。

<写真/末松正義、ウトロン牧場(表紙写真) 取材・文/山本和歌子、養田邦雄>

Source From: https://www.fnn.jp/articles/FNN/512824?utm_source=pocket_saves

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