フィッシングをはじめとするレジャーユースから漁業、遊覧観光などのプロユースまで、水上のさまざまなシーンで使われ、幅広いユーザーに愛用されているHondaの船外機。そのテクノロジーには、今も昔も、そしてこれからも「人々の生活の役に立ちたい」という想いが根底に流れている。 文=湯目由明 写真=藤田真郷/本田技研工業株式会社 バイク(二輪)とクルマ(四輪)以外にも、陸上では耕うん機や除雪機、さまざまな機械の動力源に用いられる汎用エンジンなど、暮らしの身近な場所で活躍するホンダパワー。「縁の下の力持ち」として日々の生活や仕事、社会を支える原動力になっているのがパワープロダクツ(以下PPと略す)事業だ。 PP製品が活躍するのは陸の上だけではない。漁船や遊覧観光船、ボートなどに設置される取り外し式のエンジン=船外機の世界でも、環境負荷の少ない4ストロークタイプを他社に先駆けて展開し、カーボンニュートラルを見据えた小型電動推進機を開発するなど、水の上でもホンダブランドの存在感が光る。 労力を技術の力で軽減し、作業環境が改善される。地球に優しく人々の暮らしを豊かにするのがPP製品に共通するテーマだ。 「漁師さんや遊覧観光船など、水の上で生計を立てている人たちのお役に立ちたいという想いで船外機事業に参入しました」と語るのは、二輪・パワープロダクツ事業本部パワープロダクツ事業統括部のマリン事業部の部長を務める佐藤公亮氏。 二輪・パワープロダクツ事業本部 パワープロダクツ事業統括部 マリン事業部 部長の佐藤公亮氏。1986年入社。九州地区の汎用(※)営業所、四輪販売ディーラー勤務を経て、汎用部門海外営業・アジア大洋州地域東アジア担当に。1996年にカナダの現地法人に駐在し、二輪・汎用の日本人責任者となる。2001年にマリン部北米担当となり営業・生産・商品開発に携わり、2005年にアジア大洋州の汎用部門ブロックリーダーに就任。2011年に中国(広州/重慶)に駐在して中国でのマリン部門の事業化を実現。2018年より現職。 ※「汎用」は当時の名称。現在は「パワープロダクツ」 1964年にホンダ船外機の1号機として発売されたのがGB30。当時の船外機はガソリンとオイルの混合燃料を使う2ストロークエンジンが主流で、水中にオイルが放出されるために水質への影響が懸念された。 Honda初の船外機当時は“異端”だった!? ●2ストロークエンジンが主流の時代に「水上を走るもの、水を汚すべからず」を信念に、重量やコストなどでハンディのある4ストロークで船外機市場に参入。このGB30型以来、人と環境に優しい経済的で高品質な4ストローク船外機という基本コンセプトは不変だ 環境負荷の軽減という概念が現在ほど浸透していなかった時代に、ホンダの創業者、本田宗一郎氏は「水上を走るもの、水を汚すべからず」という信念を説いた。佐藤氏は「水産業に従事する人々にとって、魚や貝、海藻などが生計の糧になるので、それらに影響を与えにくい4ストロークの優位性をわかりやすく表現した創業者の想いは、われわれの座右の銘になっています」と力を込める。 90年代に入ると4ストロークエンジンが主流になり始める。きっかけになったのがアメリカの環境規制だ。 「船外機はアメリカが圧倒的な大市場で、そこに環境規制が導入されるとなると、従来の2ストロークでは規制値をクリアするのが難しい。他社は急ピッチで2ストロークから4ストロークへの移行を進めましたが、ホンダは4ストロークの船外機しか生産・販売していなかったので、ラインアップを拡充するスピードは速かったですね」…