NHKが絶対に死守したい「受信料ビジネス」の全貌「強制サブスク」と化す公共放送のまやかし

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もうテレビ捨てるわ」「絶対に契約しない」。ネット上でこんな言葉が飛び交ったのは昨年10月、NHKが受信料の値下げを発表したときだった。

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NHKは今年10月から受信料を値下げする。地上波のみ視聴できる地上契約は月額1100円(125円値下げ)、衛星放送も視聴できる衛星契約は月額1950円(220円値下げ)になる。

過去最大の値下げ幅であるにもかかわらず怒りの声が上がったのは、NHKが値下げと同時に、受信料を不正に払わない人には通常の2倍相当の割増金を請求するという強気の姿勢を見せたからだ。

割増金制度はこの4月からスタートするが、NHKにとっては満足のいく徴収法ではない。なぜならNHKは、総務省の受信料制度のあり方を検討する有識者会議で、テレビ設置者のすべてがNHKに届け出ることを義務づける制度の創設まで求めていたからだ。

受信料の徴収で強硬なNHK

企図していたのはそれだけではない。NHKは、受信契約を結んでいない世帯の居住者氏名や引っ越し先の情報などの個人情報を公的機関に照会できるようにする仕組みを導入するよう訴えていた。個人情報への配慮に欠けた要求は有識者会議であえなく却下されたが、もし要求が通っていれば、NHKが未契約者の個人情報を入手する仕組みが築かれていた可能性がある。

NHKが受信料の徴収で強硬なのは、受信料制度の永続性に不安があるからだろう。

公共放送の受信料は見たい人が払うサービス対価ではなく、公共放送機関そのものを維持・運営していくための「特殊な負担金」とされる。テレビを設置しているすべての世帯が負担することで、NHKが全国あまねく、確かな情報を届けるという理屈だ。

だからNHKにとって、スクランブル化(電波を暗号化し、見たい人が有料で解除して見る)などは論外だ。

しかし、テレビ離れが進み人々の生活習慣がネット中心になった昨今、その理屈が今後も通るか。とくにテレビをリアルタイムで見る習慣のない若い世代には納得できるものではない。

動画制作を学ぶ江戸川大学2年の牧野奈々葉さんは「受信料制度の仕組みは理解しているが、まったく見ていないのに毎月必ず2000円ほど払わされるのは納得がいかない」と語る。牧野さんが普段よく見るのは、ユーチューブやアマゾンプライム・ビデオだ。

動画のサブスクリプション(定額料金制)サービスに慣れ親しんだ世代にとって、受信料制度は使わないのに請求される「強制サブスク」と化しているのだ。

NHKの受信料収入は2018年度の7122億円で頭打ちになり、2019年度以降は減少基調にある。

契約件数はピーク時の2019年度末に4212万件あったものが、2021年度末には4155万件と57万件減少した。22年度は上半期だけで契約件数が当初想定の4倍以上の約20万件減少した。減少スピードが加速している。

1月10日に公表した経営計画(修正版)で、NHKは2023年度の受信料収入を計画当初の6690億円から6240億円へと450億円も下方修正した。

取材情報に頼る議員

時代に合わなくなった受信料制度が維持されるのは、NHKと政治が長年培ってきた共存関係によるところが大きい。持ちつ持たれつの関係の中で、制度は温存されてきた。

NHKは政府から独立した機関であるにもかかわらず、予算と人事を実質的に政府に握られている。予算は毎年国会の承認が必要で、1〜3月の予算審議の時期になると、NHKの幹部らが与野党の国会議員の元へ説明に回る。予算案に同意してもらうためだ。国民からの広い支持を装うため、与野党どちらからも同意を取り付けることが重要な事柄だ。

予算だけではない。NHKの経営委員(12人)は、国会の承認を得て内閣総理大臣が任命する。会長は経営委員会が選出する仕組みだ。しかし安倍晋三政権では、首相に近しい人間が経営委員に相次いで選ばれた。

元経営委員の上村達男・早稲田大学名誉教授は、「経営委員は本来、与野党の同意を得て選出されるのが慣例だ。こうした国会同意人事は政府任命人事とは異なる。政府から独立した機関の人事だからだ。それを政府は区別できないでいる」と指摘する。

予算が審議される時期にNHK内ではびこるのが、政治、とりわけ政権与党への忖度(そんたく)だ。「この時期に政権批判はまずい」「おとなしくしていてくれ」といった声が現場に下りてくることがあると、複数の職員が証言する。

安倍官房副長官(当時)がNHKの国会担当理事を呼び出し、戦時性暴力を扱ったETV番組に苦言を呈し、番組改編が起きたのは、2001年の1月、予算審議が始まろうとしているときだった。

選挙は災害と並ぶ2大ミッション

もう1つ、国会議員とNHKが親密になる最大のイベントが選挙だ。NHKの報道にとって選挙は災害と並ぶ2大ミッション。大量の人員と予算を割き、どのメディアよりも選挙報道に血眼になる。

開票日、NHKが当選確実を出すまで候補者は万歳三唱しないことが不文律になっているほど、国会議員はNHKの情報を信頼している。日頃から、NHK政治部記者と選挙情報をやり取りしている国会議員も少なくないとされる。

NHKの理事や政治部記者が国会議員に良質な情報を提供するために、現場の記者たちは血眼になって取材に奔走しなければならない。NHKでは2013年に31歳の記者が、2019年には40代の管理職が過労死した。亡くなったのは、いずれも選挙取材の後だった。

「当確を民放より1分でも早く打つためだけに、いったいどれだけの負荷を現場にかけるのか。過労死した2人の教訓はどこへ行ったのか」。30代記者はそう憤る。

だが国会議員との良好な関係を維持していくため、現場記者たちの膨大な業務は続く。

政治サイドの理解を得ながらNHKが近年力を入れてきたのが、受信料制度の補強だ。

昨年6月、総務省はローカル局を含む民放とNHKが放送インフラを共用できる仕組みをつくる方針を示した。これを受け、NHKの受信料がNHKの放送事業だけではなく全国の放送網維持のために使われることになった。

地域人口減少が著しいローカル局の経営は厳しい。総務省によると、在京キー局や在阪準キー局を除いたローカル局(ラジオ局含む)全体の営業利益は2015年に724億円だったが、2020年には170億円にまで落ち込んだ。2021年には495億円まで持ち直したもののジリ貧の状況は変わらない。

NHKも昨年秋、他メディアとの連携に700億円を投じると発表。NHKの業務肥大化に批判的だった民放連も、背に腹は代えられぬ形でNHKの支援を受ける。受信料はNHKだけのものではなくなった。

さらに受信料を国内の民放、ネット業者に広く使おうという動きも顕在化している。NHKに日本の動画コンテンツ産業をリードする役を担わせようとするものだ。

ネットフリックスやアマゾンプライムなど外資系動画コンテンツ企業の影響力が強まり、これまでグローバル競争とは無縁だったテレビが国際競争に巻き込まれている。

総務省の公共放送ワーキンググループ(WG)委員である、青山学院大学の内山隆教授(経済学)は「受信料をわが国の放送業界とネット映像配信業界の投資と公益のために使えるようにするべきだ。NHKがこうした業界を引っ張っていけるよう、受信料制度を変えていく発想が必要ではないか」と話す。

最大の論点がネット受信料

受信料制度をめぐる現在の最大の論点がネット受信料だ。NHKのネット事業を「補完業務」から「本来業務」へと格上げするための議論が総務省で進む。

受信料収入が6000億円を割り込むのが時間の問題となる中、NHKはテレビ放送を見ない人からも受信料を徴収できる仕組みを築きたい。ネットが本業化された場合、どのような形で受信料を徴収するのか。NHKは「ネットに接続できるというだけで、スマートフォンやパソコンから受信料を徴収することは現時点では考えていない」とする。

すべてのスマホ保有者から徴収する案は、公共放送WGでは否定的な声が相次いだため実現の可能性は低い。だが、WGではアプリをインストールした人から徴収する案や国民全員から徴収する案なども提示された。どの案になるにせよ、受信料制度そのものは強化されることになる。

ただし疑問は拭えない。NHKが国民からの受信料を財源にするのは、政治権力や資本など特定勢力におもねらない放送をするためだ。だが、この「独立性」という建前を信じている人がどれだけいるのか。

元NHK政治部記者である立憲民主党の安住淳・国会対策委員長は、予算審議の時期にNHKの理事や幹部が政治の側に気を使うのは「当然」としつつ、「それでも毅然として放送できなければ公共放送とはいえない」と指摘する。

「NHKの『日曜討論』には各党の政調会長や幹事長が招かれることが多いが、国対委員長が招かれることはほぼない。自民党の国対が出演に消極的であることをNHKが忖度しているからだ」

安倍政権以降、自民党は国対委員長が日曜討論に出ることを渋るようになり、NHKはそれを受け入れてきた。結果として国対委員長の討論は実施されないままだ。

受信料値下げもしかり。NHKが値下げを公表したのは2021年1月、菅義偉首相(当時)が施政方針演説で「月額で1割を超える思い切った引き下げ」に言及した直後のことだった。前田晃伸会長は値下げを「衛星契約のみ」にとどめようとしたが、武田良太総務相(当時)や総務相経験者が主張する「地上(波)も値下げで」で、一気に押し切られてしまった。

経営の根本に関わる受信料の額まで政治の意向に従うNHKが、独立した公共メディアといえるだろうか。

「ビジネス」化する受信料

NHKが2022年度下期から強調する営業活動の方針は「共感・納得」だ。受信料制度を「強制サブスク」と感じる人に対し、受信料の本来の目的をいかに説得するかが、制度維持には欠かせない。

しかし、公共メディアとして今後何をし、何をしないのか。維持していくにはいくら必要なのか。そういった根本的な説明をNHK自身が避けてきた。

50代のベテランディレクターは「公共の範囲はどこまでか、受信料はなぜ必要なのかといったNHKの根本に関わる話を、NHKはあえて説明しない戦略を取ってきたように思える」と言う。

説明せずとも、政府や与党政治家の意向にさえ逆らわなければネット受信料という新たな収益源を入手できる──。もしNHKがそう考えているのだとしたら、もはやそれは公共放送と呼べず、単なる「受信料ビジネス」でしかないだろう。

Source taken from: https://toyokeizai.net/articles/-/647125?page=5

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